少子化が加速する中、企業の採用活動は年々競争が激しくなり、「これまで通りの採用戦略」だけでは若手人材を確保しにくくなっています。
特に地方企業・中小企業では、大卒採用の母集団が減少し、採用コストも年々上昇。採用方法そのものを見直す企業が増えてきました。
その流れの中で、近年大きく注目されているのが 高卒採用 という選択肢です。
大卒採用とは全く異なるルールと仕組みを持ちながら、企業にとって多くのメリットがあるため、戦略的に取り入れる企業が急増しています。
注目されつつある高卒採用——なぜ今、企業が動き始めているのか

高卒採用は決して新しい仕組みではありませんが、「若手人材の安定確保」や「定着率の高さ」などが見直され、ここ数年で再び注目を集めています。
背景には、採用市場全体の変化に加え、高卒人材そのものの価値が再評価されていることがあります。
高卒採用が注目される背景
大卒採用が難しい企業が増える中で、次のような理由から高卒採用の必要性が高まっています。
- 若手人材の確保が難しくなった
大卒の人数は減少し、大都市に集中。特に地方企業では応募が集まりにくい状況が続いています。 - 高卒就職率は98%以上という安定した高さ
「就職する」という進路を選ぶ高校生が多く、企業にとって若手を迎えやすい市場が形成されています。 - 学校推薦による「ミスマッチの少なさ」
高校では、先生が生徒の適性を理解した上で企業を推薦します。そのため、仕事内容とのズレが起きにくいという特徴があります。 - 定着率の高さが企業に評価されている
高卒採用は「育成を前提に採用する」文化が根付いており、長く働く人材に育つケースが多いといわれています。
高卒社員が企業にもたらす価値
高卒社員は社会人としてのスタートが早く、企業文化になじむスピードが速い傾向があります。
入社当初は経験や知識が少なくても、現場で学びながら成長していくため、企業の考え方に合わせて育っていく柔軟性があります。
また、学業と就職活動を同時に行う大卒生とは異なり、就職を「人生の大きな選択」として慎重に考える高校生も多く、企業と長期的に関わる意識を持ちやすい点も特徴です。
企業側が特に評価しているポイント
- 企業文化への馴染みやすさ
- 若いうちから経験を積める成長スピード
- 定着率の高さによる採用コストの削減
- 地域に根ざした採用ができる点
これらの特徴から、製造業・建設業・物流業・サービス業など「現場で育てる力が強い企業」ほど、高卒採用との相性が良いと言えます。
高卒採用が企業戦略の一部になり始めている
採用市場を見渡すと、高卒採用は単なる「人手不足対策」ではなく、企業の将来を見据えた戦略的取り組みとして扱われるようになっています。
■ 若手から教育して技能継承を進めたい
■ 組織の若返りを図りたい
■ 長期で働く社員を育てたい
こうした目的を持つ企業ほど、高卒採用の効果を実感しやすい傾向があります。
高卒採用と大卒採用の違いとは

高卒採用と大卒採用は、表面的には「新卒を採用する」という点で共通していますが、実際には制度・応募ルール・選考スケジュール・学生との関わり方まで大きく異なります。
そのため、大卒採用の感覚のまま取り組むと、「応募が来ない」「ルールを知らずに学校に不信感を与えてしまう」といったトラブルにつながることも珍しくありません。
制度とルールのちがいを理解する重要性
高卒採用は、国の制度によって明確なルールが定められており、大卒採用のように自由度が高いわけではありません。
特に「応募前職場見学」「学校推薦」「応募は1人1社ずつ」など、高校生ならではの仕組みがあるため、企業側の理解不足があると進め方に影響が出ます。
制度面での主な違い
- 高卒採用は学校を通じて応募する「学校推薦」が基本
→ 企業は高校と関係づくりが不可欠。 - 応募できる企業は同時にひとつだけ(1人1社制)
→ 高校生は企業を慎重に選ぶため、魅力の伝え方が非常に重要。 - 選考スケジュールが全国共通で決まっている
→ 大卒のように自由に採用スタートできない。 - 求人票は7月までに提出し、9月中旬以降に選考スタート
→ 準備の遅れがそのまま採用の機会損失につながる。
一方、大卒採用は企業が自由に選考開始時期を決められ、応募方法も自由で、学校を通さず学生と直接やり取りができます。この自由度の高さが大きな違いです。
採用スケジュールのちがい
高卒採用はタイミングが非常にシビアです。
ある程度自由に時期をコントロールできる大卒採用と比べると、「期限を守る採用」というイメージに近いかもしれません。
高卒採用と大卒採用のスケジュール比較
※表は本文理解を助けるため、1回のみ使用しています。
| 項目 | 高卒採用 | 大卒採用 |
|---|---|---|
| 求人開始時期 | 7月上旬から学校へ求人票 | 通年で可(企業が自由) |
| 学校訪問 | 夏〜秋に実施 | 必須ではない |
| 応募方法 | 学校推薦・1人1社制 | 自由応募・複数エントリー可 |
| 選考開始 | 9月中旬から統一スタート | 企業ごとに自由 |
| 内定 | 10〜11月が中心 | 早い企業は年明け前から出す |
高卒採用は “学校との信頼関係” が採用の質に直結する仕組みになっているため、毎年決まった時期に向けて準備を整えていくことが必要になります。
応募方法・学生との関わり方のちがい
高卒採用は「学校が大きな役割を担う」点が最大の特徴です。
高卒採用では…
- 企業は直接学生にアプローチできない
- 学校が生徒の適性を見て企業を推薦する
- 企業は先生に対して会社の魅力を伝える必要がある
- 企業と学生が接触できる機会は限られる(職場見学など)
対して大卒採用では…
- 説明会・インターン・SNSなど、企業が学生と接点を作りやすい
- 学生は複数社に応募し、比較しながら選ぶ
- 企業は魅力発信を自由に工夫できる
このように、関わり方そのものがまったく違います。
学生の特徴・価値観のちがい
採用制度だけでなく、学生自身の価値観も高卒と大卒では大きく異なります。
企業がどのような育成を考えているかによって、どちらが適しているかも変わってきます。
高卒学生の特徴
- 社会人としてのスタートが早い
- 企業文化になじみやすく、素直に吸収する力が強い
- 地元志向が強く、地域企業との相性が良い
- 就職活動の自由度は低いが、そのぶん「企業との関係を大切にしやすい」
大卒学生の特徴
- 専門知識やリテラシーを持つ学生が多い
- 自分のキャリアの方向性を考える傾向が強い
- インターンや企業研究を通じ、企業比較を重視する
- 転職前提でキャリア形成する学生も増えている
高卒は「素直さ・吸収力・定着重視」、
大卒は「自己実現・スキル・キャリア志向」といった特徴があるため、企業が求める人物像によって適した採用手法も変わります。
採用難易度・採用コストのちがい
採用にかかる労力とコストも大きく異なります。
高卒採用の特徴
- 求人票作成や学校訪問など準備は必要
- 広告費がほぼかからず、コストは低め
- 学校推薦のため、応募者の質が安定しやすい
- 選考期間が短いため、効率よく採用できる
大卒採用の特徴
- 広告費・イベント費・工数が多く、コストは高い傾向
- 母集団形成に時間がかかる
- 内定辞退が多く、採用計画が読みにくい
- インターン設計など準備すべきことが多い
どちらが良い悪いではなく、「企業の現状に合った採用」ができているかが重要です。
高卒採用の3つのメリット

高卒採用には、企業が長期的に組織づくりを進めるうえで欠かせない魅力があります。
大卒採用と比べて特別な仕組みやルールがある一方で、「育成しながら戦力化できる」という特徴から、高卒人材を積極的に採用する企業が増えています。
ここでは特に企業が感じやすい3つのメリットを、分かりやすく整理します。
1. 企業文化になじみやすく育てやすい
高卒社員は社会人としてのスタートが早いため、企業の価値観や働き方を素直に吸収しやすい特徴があります。
高校生は就職が人生の大きな選択になるため、覚悟をもって入社してくれるケースが多く、現場に馴染むスピードも速い傾向があります。
企業側にとっては次のようなメリットがあります。
■ 若いうちから経験を積ませられる
■ 指導内容を素直に受け取りやすい
■ 組織の考え方や文化を早い段階で理解してくれる
結果として、長期的に見て「会社の色に染まりやすい人材」を育てることができます。
2. 定着率が高く長く活躍してくれる
高卒採用は学校推薦という仕組みがあるため、企業と学生の間で大きなミスマッチが起こりにくい傾向があります。
職場見学を通して仕事内容を理解してから応募するため、入社後のギャップが軽減され、結果として定着率の高さにつながります。
また、地元就職を希望する学生も多く、仕事と生活の距離感が合うことで長く働きやすい環境が生まれます。
企業側で感じられる効果としては、
といった点が挙げられます。
3. 採用コストを抑えられ効率的に人材確保できる
大卒採用は広告費・イベント費・インターン企画などでコストがかかりやすいですが、高卒採用は学校を通じて採用が進むため、大きな広告費は必要ありません。
求人票の作成や学校訪問など準備はあるものの、全体的なコストは抑えやすい仕組みになっています。
さらに、高卒採用は選考の開始から内定までの期間が短く、効率的に採用が進む点も企業にとってプラスです。
企業が感じやすいメリットは以下の通りです。
少ない労力で質の高い採用につながりやすいのが、高卒採用の魅力です。
高卒採用を成功させるために企業が意識したいポイント

高卒採用は、大卒採用とは異なる制度やルールの中で行われるため、企業側の理解と準備がそのまま結果につながります。
特に学校との関係づくりや情報の伝え方、入社後のフォロー体制は「応募数」「定着率」「早期戦力化」に直結する重要な要素です。
学校との関係づくりを丁寧に行う
高卒採用は学校を通して進むため、企業が信頼される存在であるかがとても重要です。
求人票の提出だけでなく、学校訪問や進路指導の先生とのコミュニケーションなど、日頃の関係づくりが応募数の増減に影響します。
■ 企業の魅力や仕事内容を丁寧に伝える
■ 毎年欠かさず求人票を出し続ける
■ 職場見学や説明会で誠実な対応を心がける
こうした積み重ねが、「安心して送り出せる企業」として学校から評価される土台となります。
求人票と職場見学で働くイメージをしっかり伝える
高校生にとって、求人票と職場見学は企業を判断するための大切な情報源です。
仕事内容を分かりやすく記載し、安全面や教育体制、働く人の雰囲気まで伝えることで、不安を抱えたまま応募することがなくなります。
また職場見学では、
など、学生が「ここで働く自分」をイメージできる工夫が欠かせません。
入社後の育成を企業全体でサポートする
高卒採用は育成前提の採用です。
教育担当者だけでなく、現場全体が受け入れる意識を持つことで、高卒社員は安心して成長できる環境が整います。
企業側に求められるポイントは次の通りです。
- メンター制度など相談しやすい環境づくり
- 業務ステップを細分化し、少しずつ経験を積ませる
- 定期的な面談で不安を解消し、成長を支援する
- 若手の成長を見守る風土を社内で共有する
こうしたサポートが定着率にも直結し、結果として企業全体の戦力アップにつながります。
高卒採用は企業の未来をつくる大切な選択肢
高卒採用は「人手不足を埋めるための方法」と捉えられがちですが、実際は企業の長期的な成長を支える重要な採用手法のひとつです。
若手を丁寧に育て、企業文化に馴染ませながら戦力化していくという点で、組織づくりに大きな効果があります。
■ 若手が増えることで現場に活気が生まれる
■ 技能継承や世代交代が進めやすくなる
■ 長期雇用が前提の採用で安定した組織が築ける
企業が正しく理解し、丁寧に向き合うことで、高卒採用は大きな成果を生み出す取り組みへと成長します。