
高校生を採用する場合、大卒を採用する時と違い様々な規則が存在します。
今回はその中でも、近年制度が変更されて注目をされている「一人二社制」という制度について解説していきます。
一人二社制を導入した背景や、変更に伴い採用側で注意するポイント、高校生や進路指導の先生を惹きつける求人票の書き方など詳しく解説していきます。
一人二社制を導入した背景とは

高卒採用のルールとして、生徒一人が応募できる企業を一社のみとする「一人一社制」という制度がありますが、近年、和歌山県をはじめとする5府県のみ、採用選考解禁日から一人二社制を採用しており、ほとんどの都道府県では、採用選考解禁の9月は「一人一社制」で、10月以降「一人二社制」とする方法をとっています。
高卒就職は長年、生徒が就職活動を行う際に学業への影響を軽減するために、一人一社のみ応募できる「一人一社制」を採用していました。
しかし、労働局が2022年春に高卒で就職をした人を対象に実施したアンケートで、「選考開始日から複数の企業へ応募をしたかった」と回答をした人が半数以上いたことや、若年層の早期退職者が増加している傾向であったことなど、様々な理由から見直すことになりました。
採用方法は都道府県によって違う

2025年(令和7年)3月高校卒業者の応募・推薦方法について都道府県別に調査した結果、応募開始月の9月から一人二社制を採用している都道府県は、秋田県・茨城県・大阪府・和歌山県・沖縄県の5府県で、そのほかの都道府県は10月や11月から採用する状況にあります。
9月から一人二社制または複数応募可能 | 秋田・茨城・大阪・和歌山・沖縄 |
10月から一人二社制または複数応募可能 | 青森・岩手・宮城・山形・福島 他25都府県 |
11月から一人二社制または複数応募可能 | 北海道・新潟・富山・石川・岐阜 他7県 |
今年2026年(令和8年)3月高校卒業者の応募・推薦方法についての調査内容はまだ発表されていませんが、おそらく昨年度と同じような内容になると考えられます。
企業側も、求人を提出する地域のルールがどうなっているのかを確認し、そのルールに従って求人を提出しましょう。
一人二社制へ変更後に注意するポイント

一人二社制へ変更に伴い、高校生が複数の企業に応募できるため、企業ではより有力な人材の確保をしやすくなる一方、高校生が企業研究にかける時間が少なくなるため、入社後に「イメージしていた企業と違う」「仕事が自分に合わなかった」などの理由で、早期退職をする人が増える可能性が高まります。
そのため企業側では、積極的にインターンシップや職場見学の機会を設けたり、求人票を作成する際に高校生が誤解を招きやすい表現を避けることで、早期退職者数を減らすことができます。
また、高校生は希望する企業から内定を得た場合や、先に内定を獲得した企業への入社を決めた場合、内定辞退や選考辞退が発生しやすくなるため、採用選考が例年よりも長期化する可能性が高まります。
そのため企業側では、あらかじめ採用スケジュールを設定し、応募から採用までの期間をスムーズに行えるように努める必要があります。
一人二社制を導入後の就職内定率は?

厚生労働省が発表した「令和6年度高校・中学新卒者のハローワークに係る求人・求職・就職内定状況」によると、一人二社制を導入し始めた、2023年(令和5年)3月卒から就職内定率が徐々に上昇しています。
対象年 | 9月末時点の就職内定率 | 9月末時点の求人倍率 |
---|---|---|
2022年(令和4年)3月卒 | 62% | 2.66倍 |
2023年(令和5年)3月卒 | 62.4% | 3.29倍 |
2024年(令和6年)3月卒 | 63% | 3.79倍 |
2025年(令和7年)3月卒 | 63.2% | 3.91倍 |
2024年9月時点(一次募集期間内)で高校生の就職内定率は63.2%で、求人倍率は3.91倍となっています。
二次募集期間内の就職内定率と求人倍率はまだ発表されていませんが、前年度の就職内定率と求人倍率を確認してみると、2024年3月末現在の就職内定率が99.2%となっているため、今年度も同じように高い数値が発表されると考えられます。(参照:厚生労働省「高校新卒者のハローワーク求人に係る就職内定率の推移」)
つまり、10月以降に始まる二次募集時点で就職が決まっていない生徒は約4割となり、一次募集時よりも応募数は減少すると見られるため、一人二社制になったからと言って9月からのスタートを逃してしまうと、高卒採用がより厳しくなっていくと考えられます。
求人票の書き方

一人二社制に変更となったことで、他社との競争も激しくなるため、企業側としても高校生や進路指導の先生が魅力的だと感じる求人票を書かなくてはなりません。
高校生や進路指導の先生が求人票を閲覧する際に、注目する項目は「仕事の内容」「必要な知識」「賃金等」「就業時間」「休日等」です。
以下のポイントを抑えて、魅力的な求人票を作成しましょう。
誤解を招きやすい表現は避ける
イメージが湧きやすいように丁寧に記載する
専門的な用語は避ける
高校生や進路指導の先生にとって、ビジネス用語や専門的な言葉は難しく感じることがあるため、わかりやすい言葉でできるだけシンプルに記載するようにしましょう。
先生の中には、企業への就職経験が少ない人や横文字が得意でない人もいるため、情報を伝える際は、すべての人が理解できるようにすることが重要です。
誤解を招きやすい表現は避ける
高校生用の求人だけに限らず、すべての求人票において記載できる表現にはルールがあります。
「男性限定」「健常者限定」など性別や健康状態について触れた表現を記載すると、男女雇用均等法や障害者雇用促進法に触れてしまうため、「元気な男性を募集します」など誤解を招きやすい表現は避けるようにしましょう。
イメージが湧きやすいように丁寧に記載する
求人票を閲覧する高校生や進路指導の先生が、イメージをしやすい内容を記載するように心がけましょう。
例えば、仕事の内容欄に「自社で製造した商品を販売するお仕事です」と記載した場合、BtoBなのかBtoCなのかわかりません。
そのため、「自社で製造した〇〇を一般のお客様へ販売するお仕事です」のように、より詳しく具体的にイメージできるよう、丁寧に記載をしましょう。
2026年高卒採用スケジュール
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2026年に高校を卒業する生徒の採用スケジュールが、2025年2月に厚生労働省から発表されました。
【令和8年(2026年)3月新規高等学校卒業者の採用選考期日等】(引用:厚生労働省)
ハローワークによる求人申込書の受付開始(※) 6月1日
企業による学校への求人申込及び学校訪問開始 7月1日
学校から企業への生徒の応募書類提出開始 9月5日(沖縄県は8月30日)
企業による選考開始及び採用内定開始 9月16日
※高校生を対象として求人については、ハローワークにおいて求人の内容を確認したのち、学校に求人が提出されることとなります。
高校新卒採用の場合、必ずハローワークへ申請を行い求人票を登録・発行した後、ハローワークから確認印を押印された求人票を受け取って高校へ提出・郵送をします。
そのため、企業側が直接高校生へ連絡して採用選考を進めることは禁止です。
一人二社制変更によって変わる企業の動き
一人二社制へ変更になったことで、多くの都道府県では10月より二次募集をかけられるようになりました。
9月から開始される採用試験で残念ながら不採用となってしまった高校生向けに、少なくとも9月中旬ごろから二次募集に向けて動き始め、各都道府県が定めている一人二社制の開始日から選考を開始できるようにしましょう。
なお、北海道など一部の地域では、企業説明会で応募する場合について期間にとらわれず、一人二社以上可能としているところもありますので、求人を提出する地域を管轄するハローワークで事前に確認をしておくと良いでしょう。
まとめ

今回は、高卒の採用ルールの一つである「一人二社制」について解説してきました。
一人二社制は、生徒一人につき企業へ応募できる数が二社になるという制度です。
これまで生徒側が就職活動を行うことで学業に支障をきたすことがないよう、一人一社のみ応募ができる「一人一社制」を採用していましたが、実際に高卒で就職をした人に実施したアンケートで、複数の企業へ応募をしたかったと回答している人が多くいたこと、若年層の早期退職者が増加傾向にあったため、一人二社制に変更となりました。
しかし、都道府県によって応募開始月の9月から一人二社制を採用しているところは少なく、多くの都道府県は10月から一人二社制を解禁している状況にあります。
全体の約6割の生徒が、応募開始月の9月に内定をもらっているという調査結果が、厚生労働省から発表されているため、多くの都道府県が一人二社制を解禁する10月以降も就職活動をしている生徒は、残りの約4割です。
効率的且つ魅力的なアピールができるよう、求人票は専門的な用語を避け、誤解を招きやすい表現は避けるなどし、有能な学生が来てくれるようにしましょう。
また、9月の一次募集(一人一社制)での採用結果をいち早く整理し、多くの都道府県が10月から始める二次募集(一人二社制)に求人票が間に合うよう、少なくとも9月の中旬ごろから動き始められるようにしましょう。