
1. 高卒採用のルール
高卒採用は、大卒や中途採用とは異なる独自のルールや慣習があります。
これらは高校生の学業を最優先し、適切な職業選択を支援するために設けられたものです。
企業がこのルールを遵守することは、採用活動の円滑な進行と、高校生・学校からの信頼獲得に繋がります。
三者間ルールと一人一社制
高卒採用の基本的な枠組みは、学校・経済団体・都道府県労働局の三者で協定を結ぶ「三者間ルール」に基づいています。
これにより、採用活動の時期や応募方法などが全国的に調整されています。
中でも重要なのが「一人一社制」です。これは高校生が、応募開始から選考終了までの間に1社のみ応募できるという制度で、複数応募による競争過熱や学業への影響を避ける目的で導入されています(※地域や学校により緩和措置がある場合もあります)。
書類選考のみの禁止
高卒採用では、書類選考だけで不合格とすることは禁止されています。
これは、職業経験が少ない高校生に対して、面接や適性検査などを通じて、多面的・人物重視で評価するための配慮です。
全国高等学校統一応募用紙の使用
高卒求人では、応募書類に**「全国高等学校統一応募用紙」**を使用することが原則となっており、企業独自のエントリーシートや履歴書の提出を求めることはできません。
これにより、応募者間の公平性を確保し、差別のない選考が可能になります。
面接時の違反質問の禁止
面接では、応募者のプライバシーや人権を尊重し、**不適切な質問(=違反質問)**を行ってはいけません。
たとえば、以下のような質問は避ける必要があります。
■出身地・家庭環境・家族構成
■宗教や政治的信条
■本人の病歴や持病 など
これらは就職差別にあたる可能性があるため、面接官には事前に十分な研修を行うことが重要です。
指定校求人の「3倍ルール」
企業が**指定校求人(=特定の高校のみに求人を出す方法)**を行う場合、応募枠の3倍までの高校に求人票を出すという「3倍ルール」があります。
これは法的な義務ではなく、業界内の慣行として広まっているものですが、学校との信頼関係維持のためには意識しておくべきルールです。
成人年齢引き下げの影響
2022年4月から成人年齢が18歳に引き下げられましたが、労働法の観点では未成年(20歳未満)への配慮は引き続き必要です。
特に高卒採用においては、18歳であっても親権者の同意を得た上で雇用契約を交わすことが望ましいとされています。企業は、保護者への説明責任と同意取得を怠らないようにしましょう。
高卒採用においては、法令遵守だけでなく、高校生の成長を支えるという視点も大切です。制度を正しく理解した上で、誠実な採用活動を行いましょう。
2.高卒採用の流れ

高卒採用には、企業が守るべきスケジュールや手順が細かく定められており、大卒や中途採用とは異なる特徴があります。
ここでは、2026年卒(※2025年度実施)のスケジュールを例に、年間の流れと各ステップのポイントを詳しく解説します。
高卒採用の年間スケジュール(例:2026年卒)
■3月〜5月
→ 採用計画の策定、求人票の準備
■6月下旬
→ハローワークへの求人申し込み開始
■7月1日
→ ハローワークによる求人公開・学校への情報提供開始
■7月〜8月
→ 学校訪問・求人票説明・職場見学の受け入れなど
■9月5日〜
→応募書類の提出開始(※一人一社制)
■9月16日〜
→採用試験の実施開始(面接・適性検査等)
■10月以降
→ 二次募集、内定者フォロー、入社準備など
※スケジュールは例年の目安であり、地域や年度によって多少異なることがあります。
採用活動の主な流れ
ステップ1:採用計画と求人票の作成(3〜6月)
まずは社内で、採用人数・配属部署・求める人物像などを明確にし、求人票の作成に入ります。
ポイント
・求人票には「仕事内容」「勤務地」「勤務時間」「給与」「福利厚生」などを明記
・高校生にも分かりやすい言葉・表現を使用することが重要
ステップ2:ハローワークへの求人提出(6月下旬)
高卒求人は、必ずハローワークを通じて行う必要があります。
企業が求人票を提出し、ハローワークが内容を確認・登録した後、各高校に情報が共有されます。
ステップ3:高校とのやりとり・職場見学(7〜8月)
ハローワークを通じて求人情報が学校に届いた後、企業は高校の進路指導担当の先生とやりとりを行い、求人内容を説明します。
また、生徒の不安を和らげるために職場見学の受け入れも重要です。
ポイント
・学校との信頼関係構築が採用成功のカギ
・「この企業なら安心して生徒を紹介できる」と思われる対応が大切
ステップ4:応募・選考(9月以降)
9月5日から、いよいよ応募受付がスタートします(※原則一人一社制)。
9月16日以降に、面接・適性検査などの採用試験が可能となります。
ポイント
・面接は高校生の緊張をほぐす雰囲気づくりを意識
・不合格通知は、必ず学校経由で連絡するなど、配慮が求められます
ステップ5:内定後フォロー・入社準備(10月〜翌年3月)
内定後は、企業と生徒のつながりを強めるフェーズです。
保護者や学校と連携を取りながら、入社説明会、制服採寸、必要書類の案内などを進めます。
ポイント
・内定後のフォローが、入社後の定着率に大きく影響
・生徒・保護者の不安を軽減する丁寧な対応が求められます
高卒採用は、企業と高校、そして生徒の信頼関係によって成り立っています。
各ステップの丁寧な準備と対応が、質の高い人材との出会いにつながります。
3.高卒採用で押さえるべき6つのポイント

高卒採用には、大卒や中途採用とは異なる独自の配慮や工夫が求められます。
採用ルールを守るのはもちろん、学校・保護者・高校生本人との信頼関係を築くことが何より大切です。
ここでは、高卒採用を成功させるために企業が意識すべき6つのポイントを紹介します。
学校との信頼関係を築く
高校生の応募は、進路指導の先生を通して行われるのが基本です。
学校側の信頼を得ることが、応募数・人材の質の両面で重要なカギになります。
ポイント
■定期的に学校を訪問し、顔を覚えてもらう
■求人内容や対応は常に誠実・丁寧に
■内定辞退やトラブル発生時も、迅速で真摯な対応を
魅力が伝わる求人票をつくる
求人票は、高校生と企業の最初の接点。内容次第で、「応募したい」と思われるかどうかが決まります。
ポイント
■専門用語を避け、分かりやすい表現で
■写真や図解を活用し、職場の雰囲気を伝える
■昇給・手当・福利厚生など、待遇を具体的に記載
緊張を和らげる面接の工夫
高校生にとって面接は初めての社会との接点。硬すぎる面接では本来の魅力を引き出せないこともあります。
ポイント
■面接官は笑顔で対応し、安心できる空気づくりを
■質問は学校生活や趣味など、日常に近い内容から
■スキルより「素直さ」や「成長意欲」を重視
保護者にも安心感を届ける
高校生の進路には保護者の影響も大きいため、信頼される企業であることを示す工夫が求められます。
ポイント
■見学や会社説明会に保護者の参加を促す
■雇用条件や福利厚生を丁寧に説明する
■通勤手段・地元就職の安心感もアピール
定着を見据えたフォロー体制
採用後のミスマッチや早期離職を防ぐには、入社前から入社後までの丁寧なフォローが欠かせません。
ポイント
■内定後の懇親会・会社説明で不安を軽減
■入社後はメンター制度や定期面談を導入
■プライベートな悩みも相談できる環境づくり
長期的な育成視点を持つ
高校卒業直後の若者は、まだ成長段階。企業側が育てる姿勢を見せることで、本人にも学校にも安心感を与えられます。
ポイント
■入社後のキャリアステップや研修制度を明示
■資格取得支援・職場内教育制度の充実
■「長く働ける会社」というイメージを提供
選ばれる企業になるために
高卒採用の成功には、「ルールを守る」だけでなく、「信頼される企業であること」「未来を一緒に考える姿勢」が不可欠です。
高校生にとって、就職は人生初の大きな選択。
その一歩に寄り添い、社会人としての第一歩を安心して踏み出せる環境を提供できる企業こそが、真に“選ばれる存在”となります。
4.高卒採用に向けた企業の準備とは? 成功のカギは“事前準備”にあり!

高卒採用は、単に求人票を出すだけでは成果に結びつきません。
限られた応募枠、短い選考期間、高校・保護者との関係性…。
それらを踏まえて、採用前の段階から「人材を迎える土台」を整えることが、成功への第一歩です。
ここでは、企業が事前に整えておきたい7つの準備ポイントを紹介します。
採用計画の策定 ―「誰を、なぜ採用するのか」を明確に
最初に必要なのは、採用の目的と方針の明確化です。
「どの部署に」「どんな人材を」「なぜ必要としているのか」を整理することで、全体像がブレず、関係部署との連携もスムーズになります。
ここをチェック!
■高卒人材に期待する役割やスキルを整理
■中長期の人員計画と絡めて考える
■配属現場とのヒアリングでリアルなニーズを把握
求人票・雇用条件の整備 ― わかりやすく、伝わる内容に
高校生にとって、求人票は「企業を知るための最初の資料」。
内容の正確さはもちろん、高校生にも理解できる表現・フォーマットであることが重要です。
事前に準備しておきたいもの
■全国高等学校統一応募用紙に対応した求人票
■労働条件通知書・雇用契約書の見直し
■制服、住宅手当、昼食補助など福利厚生の実態確認
ハローワーク登録の準備 ― 忘れずチェック!提出スケジュールと方法
高卒求人は必ずハローワークを通じて行われます。
例年、6月下旬には求人申し込みが始まるため、遅れないよう準備しておきましょう。
チェックリスト
■管轄ハローワークとの事前相談
■求人申し込みスケジュールの確認
■電子申請・紙提出の方法や手順の把握
採用担当者の教育 ― 高校生目線の対応がカギ
採用担当者や面接官が、高卒採用の特性を理解していないと、トラブルや信頼低下の原因になります。
社内でルールとマナーに関する研修を行いましょう。
育成ポイント
■一人一社制、書類選考禁止などの基本ルール理解
■面接で避けるべき質問(NG質問)を共有
■学校・生徒への接し方や言葉遣いを再確認
受け入れ体制と教育制度の整備 ― 入社後の“安心感”をつくる
高校を卒業してすぐ社会に出る若者には、不安も多くあります。
働く以前に、「ここでやっていける」という安心感を提供できる環境づくりが、定着につながります。
整備しておきたいこと
■OJT担当者(育成役)の配置
■メンター制度や相談窓口の設置
■社宅、通勤支援、食事補助など生活面のサポート
学校訪問・職場見学の準備 ― 印象に残る“リアルな魅力”を見せよう
7月以降に行われる学校訪問や職場見学は、生徒と先生に企業の雰囲気を伝える重要な機会です。
スムーズに進められるよう、事前に計画を立てておきましょう。
準備するもの
■生徒向けパンフレットや会社紹介資料
■見学ルートと説明担当者の決定
■制服貸し出しや交通アクセスの配慮
保護者・地域への配慮 ― “信頼できる企業”という安心感を届ける
高校生の就職先選びには、保護者の影響も大きく関わります。
企業の姿勢や制度をきちんと伝えることが、内定承諾率と定着率アップにつながります。
信頼を得る工夫
■内定者向け説明会や見学会に保護者を招待
■社会保険、福利厚生、安全体制などを明示
■地元とのつながりや地域貢献の取り組みもアピール
準備の質が、採用の質を決める
高卒採用の準備は、単なる事務的な作業ではありません。
それは、未来の人材との出会いを最高の形で迎えるための土台作りです。
丁寧で誠実な準備を重ねる企業こそが、高校・保護者・生徒から信頼され、「ここで働きたい」と思ってもらえる企業になれるのです。
5.まとめ|高卒採用を成功させるために大切なこと

高卒採用は、大卒や中途採用と異なり、特有のルール・スケジュール・関係者との信頼構築が必要な採用活動です。
限られた応募者の中から、自社に合う人材を見つけるには、「ただ求人を出す」だけでは不十分。
学校・生徒・保護者と、誠実に向き合う姿勢が問われます。
今回のポイントをおさらい
✔ 高卒採用のルール
・「一人一社制」や「書類選考禁止」など、独自ルールが存在
・全国共通の応募書類、面接時のマナーやNG質問にも注意が必要
✔ 採用の流れ
・6月下旬の求人申込み → 9月の選考 → 翌年の入社という長期スケジュール
・ハローワーク・学校・生徒の順で情報が流れるフローを理解し、丁寧に対応
✔ 採用のポイント
・学校との信頼関係が最優先事項
・高校生の視点に立った求人票、緊張をほぐす面接、保護者への配慮も欠かせない
・入社後のフォロー体制や成長支援が、早期離職防止のカギ
✔ 企業の準備
・採用計画・求人票の整備に加え、社内の受け入れ体制や教育制度も見直す
・面接官・現場スタッフにも高卒採用のルールと心構えをしっかり共有
高卒採用は、単なる人材補充ではありません。
それは、若い世代の可能性を信じ、育て、企業の未来を一緒に創るスタートラインです。
「どう成長してほしいか」「どんなチームを築きたいか」――
そんな未来のビジョンがあるからこそ、高卒採用は“育成型の採用”として大きな価値を持ちます。
最後に…採用は“人”から始まる
もしこれから高卒採用に本格的に取り組もうとしているなら、
まずは「採用は信頼関係づくりから始まる」という原点に立ち返ってみてください。
ルールを守る、相手を尊重する、未来に向けて育てる――
この積み重ねが、あなたの会社に“選ばれる理由”をつくっていきます。
未来を担う高校生との素敵なご縁が、皆さまの企業に訪れますように。